来年葡萄を植える畑に

今は蕎麦が花を咲かせ同時に黒い実をつけている。

稲のように風媒の自家受粉ではなく、虫がいないと身を結ばない虫媒の他家受粉。花がふた種類あって、雌しべが長い高柱花と、雌しべの短い低柱花だ。雌しべの長い花の花粉は、別の株の雌しべの短い花にしか受粉しない。逆もまた同じ。普通の他家受粉よりも条件がうるさい。

 

そんな話を聞いた若者は花に近づいて

若者は雌しべを確認した。彼らはすぐに蕎麦の個性の生き物としての強さに気づく。

 

稲のように品種は安定せず、収穫期を前にどんどん実をつけて、熟したらどんどん脱落する。穀物としては「劣等生」だ。植物としては、多様な遺伝子の組み合わせが環境の急変に対応させる力となる。気候の変化や天変地異が起きても、発芽から枯死する百日間のいずれかのときに種子は残る。施肥もいらず、他の植物を寄せず、病害虫もいない。人間に必要な必須アミノ酸が揃い、たんぱく質が水溶性なので、水でとけば腹を壊さずに食べられる。この「劣等生」の穀物が、米に偏った江戸時代の飢饉のときに人々の命を救ってきた。アイヌもまた、山火事の後は蕎麦を撒き、翌年は笹が消えて蕨を採った。大分の焼き畑も蕎麦を最初に撒くことがある。山の畑に笹や竹が入ると「蕎麦を撒け」と爺いがいう。稲と麦が主役の国で、蕎麦は人にまつろわず、しかし、人を救ってもきた。アレルギー反応で殺してもきた。

ワイナリーを若い人、来年就職を控えた学生さんが訪ねて、蕎麦の白い花に興味をもち、質問してくれたので、蕎麦の特徴を話すことになった。イネ科の牧草の種を抑え、不必要な肥料の残りを全部吸い上げてくれる蕎麦。来年はここに新しくぶどうの苗が植えられる。



  2017.9.16撮影 収穫後の畑の様子

案の定、収穫後のソバ畑で、脱落した実から蕎麦が芽を出し、双葉を開いていた。例えば自然界で、すべての親株が取り去られるようなことはないかもしれない。人間が取り去って、すべての種を食べたとしても、蕎麦は生き残る。 本葉が3枚でると、花を咲かせ、身をつけ始まる。さらに一世代後の種を残してこの秋を終えるのかもしれない。  

 

 

 

2017.9.30 本葉が二つ。三つ目の本葉が用意されている株もある

三枚の本葉のあと、花が咲く。しかし、花粉を運ぶ虫はいないのかもしれない。