若者と夜中のラーメン

隣のとり金の奥の座敷で研究者の若者たちと宴会。男の子一人、兄ちゃんがラーメン食べたいというと、どうしても連れて行きたくなる。

女の子はダイエットだからって誘っても「私は結構です」と言われるに決まっている。と思いきや、あとで「どうして誘ってくれないのですか」と怒られた。ま、なにをしても怒られるものだ。帰りの時間もあるので、宴会を一瞬抜けてラーメン一杯。となりのむろ市へ。肥ってもいいから、これは食わしてやりたい。

Add new "むろ市"

 

葱はね、なんぼでも入れていいの

でも、たくさん入れておいてね、丼に葱が残ってると悲しいの。

かあさんのネギは別皿にたくさんあって、好きなだけ入れられる。遠慮するなという。これ、喉が痛いときなんか最高なんだよな。

たくさん入れてあとでまた足したなんかする。

うちの味、最初から美味しいって人はいないと思うわ。二回目とか、三回目とか、慣れてきたときに、忘れにくくなるかも。そういう人多いのよ。だんだんにね。あら、学生さん、あなたもそういうタイプね。ゆっくりお付き合いすると良さがわかるとっておいい感じのお兄さん。変わらないってことがポイントなの。ずっと同じに味にするとね、どうしても食べたいって思い出してくれるの。年に二回でも、遠くから来てくださったり、嬉しいのよ。

 

愛する夫のため一所懸命作っていたら美味しくなったの

あら?いやだ。兄さんのせいでなんぼでも余計なこと喋らさる。うふふ。

かあさんはどこで修行したということはなく、すべてオリジナルで考え出したという。


ラー メンはね、今は亡き夫のことを本当に好きで結婚したので、彼が好きだったから毎日作っていたの。いつも準備はしていたんだけどね、急に帰ってきて食べたい なんて時は、急いで鰹の出汁をとってね、豚のバラ肉と野菜を炒めて、出汁を加えるとラーメンのスープにはなるのよ。お店のはちゃんと、豚の骨、鶏のガラ、 鯖節なんかいろいろ、そして、たっぷりの煮干しをそれぞれ、晒しの袋にいれたり、わけながら丁寧にとるのよ。煮干しはね、私があとで食べるの。

あら、普段、そんなに喋らないに、お客さんの訊くのうまいんだわ。喋らさるわあ。

 

塩漬けのメンマを1日かけて戻す

出汁が濃いから塩でも色がある 撮影:中村麻貴

 

メンマとチャーシュー

メンマはね、私は味付けたのは買わないのよ。塩漬けのを1日かけて戻すの。でも、中の塩全部抜いたらだめなのよ。旨みがなくなってしまうの。だから何度も水を替えながら丁寧に塩を抜くの。最後、すこし、塩味がのこるタイミングが難しいのよ。あとね、味付けはしないの。実は、ラーメンのスープで煮るのよ。割としっかり煮るの。じゃないと柔らかくならないしね。そう、するとね、嫌な味がラーメンにうつったりしないでしょ。そうそう。馴染むの。

チャーシューはね、醤油だけじゃないの。実は日本酒が結構入るのよ。そして、ほら、多聞。一時間だけ煮て、ぴっちり蓋をして、すこし休ませるの。この冷ます時間は長くても短くてもいけないの。

 

味噌ラーメンはやらない

味噌ラーメン?
家でやるときは、ニンニクと生姜とりんごを味噌に練り込むといいわよ。やってみて。
私はね、きっちりした味噌ラーメンは作れないと思ったの。だから「お店ではやらない」とさいしょっから決めたのよ。だってね、ラードで野菜炒めたり、そんなこと私の体力じゃむりでしょ。


最初は「むろ市」っていっていたの。でも、何屋さんかわからないっていわれて、あとから「味の」ってつかさったのよ。みなさんに「むろ市」って呼ばれるわ。この名前、日本中さがしても、うちしかないんですって。

 

追伸

僕の隣には東京からの若い客人が座っていた。それがねえ、「な、うまいだろ、ここのかあさんのスープはな、最初の一口よりもな、何回も飲んでると止まらなくなるんだぜ」とか「熱すぎないだろ、おもいやりだよ」とか、偉そうに説明している姿をみて、かあさんも喋りたくなったんだぜ。たくさん話してくれたのは君のおかげさ。ありがとうよ。

 

追記2023.3.9

隣の鳥金は建物の跡形も無くなっていた。女将は元気で僕のことも覚えていてくれた。大切な人をお連れできてよかった。旨いラーメン、ありがとう。

ここに好きなだけ自分でネギを置く

ツレがほうれん草懐かしいと。僕は焼豚が一段と旨いと。手製のメンマは変わらずに柔らかくスープに馴染む。醤油の色が濃くなったかなと言うと、すごい焼豚がよく出るようになったので、煮汁の色は濃くなったかもと。ラーメン好きのツレがスープを飲み干していて嬉しかった。

 

Front Pageへ戻る