郷土料理もろぶた寿司 について知っていることをぜひ教えてください

 

お祝いや法事など晴れの日に欠かせない押し寿司「もろぶた寿司」

佐々町や佐々川の流域で農家の皆さんが親類の集まるときなどに供されてきた「もろぶた寿司」。おくんちで集まる家族やお客様とともに食べたり、帰りに持たせたり、出初め式の各消防団の集まりに登場したり、佐々の生活に溶け込んでいます。地元で相談があると、作って届ける活動をされてこられた「さざみずほグループ」によると、具はごぼう、しいたけ、干し大根、たけのこ、板付け、ちくわ、卵など。見た目に錦糸卵の黄色が鮮やかです。


 

取材をしていると思い出の中にもろぶた寿司が登場します

「武士はね腹の中を見せてはいけない。具を挟んで見せないようにしているんだよって小さい頃にお婆ちゃんに聞きました」という話、「私の母は佐々出身で、小さい時から催事があると、もろぶた寿司を食べて来たようです。父は疎開して来た移住者でした。7人兄弟の長男で母と結婚した後、弟や妹が来る時には農家の方にもろぶた寿司を頼んで振舞ってました」という話が佐々の街を歩いていると耳に入ります。他にもろぶた寿司に関するお話がありましたら、ご追記お願いします。

 

さざみずほグループのレシピ

佐々町内でも、このもろぶた寿司を食べたこともない。見たこともないという人がいます。農家の方々に受け継がれてきた食文化で、炭鉱で働き、その後残った方々や、高度成長期以降、佐々に移り住まれた方々の家庭では作られていない場合もあるようです。そんな中で、この味を保存し、作り方を伝え、頼まれたら作って届けるという活動をされているお母さんたちがいらっしゃいます。「さざみずほグループ」のお母さんたちが少し前に長崎県の農林水産のサイトにその技を披露したページが残っています。

長崎県生活研究グループ員による「一人一技集」のページで、佐々のもろぶた寿司は江迎町の「銀杏の押し寿司」、波佐見町の「押し寿司」などとともに紹介されています。長崎県農林部農業経営課よると「長崎県内の農山漁業に従事する生活研究グループ員の生活技術、新しい技術など、くらしの知恵を収集したもの」だそうです。

佐々町「もろぶた寿司」

長崎県農林部農業経営課より


 

小佐々の方が佐々よりも多く食べとらすかも

「もしかすると、小佐々の人の方が佐々よりも沢山、もろぶた寿司ば食べとらしたかもしれんとです」。そんな風におっしゃる方がいらしたので、小佐々の方に伺ってみました。

「そうですね。私のこどもの頃はよく食べてましたね。器用なおばちゃんがおらしてね。田植えなんて、私の子供の頃は学校のお休みになったとです。そうして、親戚も、地元の人もみんなで集まって、一軒、一軒田植えばしていったとです。そんなときですね。あんたは田んぼにって、私はご飯ば作るととか、みんなで相談しとらして、さっと役割分担ばするとです。お煮しめとお吸い物ば添えて、寿司ば手でもって食べることもできるし、もって帰らすこともできるしね。そう。稲刈りのときも同じたい」。

やはり、農家皆さんの食文化であるようです。

 

わかっている起源の一つは大村寿司

豊田謙二監修『九州宝御膳物語 おいしい郷土料理大事典』西日本新聞社(2006年)によると、大村氏の戦勝記念に領民がどこの家にもあった「もろぶた」(ついた餅などを並べる浅い木箱)で押寿司を作ったことが起源だと言われています。この大村寿司を起源に現在も長崎県内だけではなく、佐賀、福岡などで押寿司が作られているという考え方があります。押型にもろぶたを使うので、佐々町で「もろぶた寿司」と呼ばれるようになったといいます。逆にもろぶたを使う寿司は大村寿司以前からあったとしてもおかしくはないのかもしれません。他に情報をお持ちのかたはご追記お願いします。


 

九州北西部に広がるもろぶた寿司の仲間

 

霧島酒造が九州の食文化を伝えています

霧島酒造のどのお酒と合うかという切り口で九州の郷土料理を発信する心意気。

長崎県大村市に伝わる大村寿司

佐賀県白石町の須古地区に伝わる須古寿司

 

長崎県農林部農業経営課が農村の生活技術として伝えています

江迎町の「銀杏の押し寿司」

波佐見町の「押し寿司」


 

「もろぶた」は「諸蓋」

日常には出てこない「もろぶた」という言葉。あちこちで方言だと思っている方もいらっしゃるようです。あるいは、押寿司の型のことを指していると思っている方もいらっしゃるようです。でも、これは方言ではなさそうです。諸蓋は、酒造り、味噌造り、醤油造りのとき、蒸した材料を冷ましながら、麹を育てたり、湿度を調整したりするため、平たい箱で、お互いが蓋になるので、諸蓋と呼ばれるようになったと言われる道具です。他には酒室で使う室蓋から訛ったとか、諸味を造るから諸蓋という人もあります。また、この諸蓋、湿度の管理に便利なので、つきたての餅を伸したり、丸めて置いたり、蕎麦やうどんを切って粉にまぶして置いたり、お菓子を置いたり運ぶ道具にしたりと転用されて行きます。刺身を寝かせる時に使われることもあります。発酵する、餅をつく、蕎麦やうどんを打つなどの体験がないと諸蓋に出会うこともなく、あっても、単に箱と呼ぶこともあるので、言葉として使われることがどんどん減ってしまうかもしれません。「もろぶた寿司」と表記されることが多いですが「諸蓋寿司」と表記しても良いかもしれません。


 

学校給食や家庭科の時間で郷土料理教育を

取材を進めると、郷土料理として残すためには、「佐々に暮らす子供みんなに食べてもらいたか」という声がなんども出てきました。それには「学校の給食や家庭科の時間で、食べたり、自分で作ったりしてほしか」といいます。